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(保管庫) 草食伝・・日本狼の復活かも・・違うかも・・・

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《第6話》 【国語教師戦】

《第6話》 【国語教師戦】

中学2年と3年の時の国語の先生は、29才の暴れん坊だった。

ただ、比較的、自分達と歳が゚く、親近感があり、たよりがいがあった。
その分、こちらは、すこしなめてかかっていたということもある。

女子生徒の間では、“えこひいき”が強いという、悪評もあったが、自分をひいきしてほしいという願望の裏返しの感もあった。
まっ、良くも悪くも、人気があった先生だった。

この先生との対戦は多かった。楽しかった。

 生徒が授業中に無駄話などしていると、その若い先生は、すぐ切れた。

「だれだ、騒いでるのは!、誰だっていってんだよ!」
と、どなりながら、机を1個ずつ蹴っ飛ばしながら、後ろへ向かってくるということもあった。
「だれだ、おめーか」と、俺の横で体が止まったようなので、
「ん、だれだ?」と思って見上げてみると、先生は、俺をにらみつけている。
俺かよ。
「俺じゃないですよ」

実際、授業中おしゃべりするなんていう、めんどくさいことは、やってなかった。
先生は、「おめーじゃねえなら、誰なんだよ」

口のききかたまで、教えてくれる先生だね。
「誰だっていいんじゃないですか、だって、もう、静かになったんだから」
「なんだと」
「先生が怒ったから、みんな、静かになってるでしょう。次からは、先生に怒られるから、騒がないでしょう。よかったじゃないですか」

先生は、俺をにらみつけたまま「ほう、そうか」と静かに言って、前にもどっていった。
中学生にもなって、怒られるのがいやだから、静かにしているというのは、どうかと思うけど、まぁ、いいや。


 先生も人間なので、二日酔いなどの理由で、元気がないこともある。
ある日、ぼーっと外を見ていたら、ベランダに、すずめが2羽とまっていた。
えさなどあるはずがないのに、さかんに、ベランダの手すりをつっついている。
手すりの塗料でも食べてんの?。
そんなはずないかと、ひまつぶしに見ていると、「ゆうじ、どこ見てんだ?」と重い声。
「はい、ベランダ見てます」とすずめたちから目を離さずに答える。

授業中によそ見してたから怒るのかなと思ったら「なんで、ベランダ見てるんだ?」とまた重い声。
「すずめが来てるんですよ」とちゃんと理由を言ったら、まわりが、「えっ、ほんとかよ、どこだ、どこだ」とざわついた。そんな、大事件か?。

ザワザワうるさいんで、すずめが逃げちゃった。

「いいから、ゆうじ、前見てろよ。すずめの学校じゃねーんだから」
すずめの学校?。
「めだかの学校なら聞いたことあるんですけど、すずめの学校ってあるんですか」
「ねーよ、いいから前見てろよ」と、だるそうに言う。
なんだ、もう、終わりか。もっと、あそぼーよ。

 授業を始める前に、ひとしゃべりしないと、気持ちが悪いというタイプの先生に見えた。
学校内に問題があると、教室で ぐちをこぼしたりしていた。

「どうだ、ゆうじ、なにかいい知恵はないか?」などと言う。
知恵?ないよ、一休さんじゃあるまいし。

「ないですねぇ、先生の“猿の浅知恵”で、なんとかならないですかねぇ」
バカに限りなく近い勇気も・・・必要ではないけれど、おもしろい。

「なんだと、おめぇ、猿の浅知恵だと」
かなり怒ってるけど“猿の浅知恵”って、国語の教科書に載ってたよ。
俺って、勉強熱心だから、ちゃーんと実生活で使ってるもん。
他のよいこの優等生みたいに、テストのための勉強はしてないからね。

「先生、“猿の浅知恵”って言われて、教師冥利につきるでしょう」
先生は、本を激しく机の上にたたきつけた。
「おまえ、それは問題になるからな」

問題ねぇ。職員会議にかけるか、担任の先生にいいつけるか。
「おたくのクラスの生徒は、こんなことをいうんですよ」ってか。
で、他の先生は、下向いて、舌出して、「“猿の浅知恵”か、中学生にしちゃ気がきいたこと言うな、しかも、あたってるしな」ってね。


 ぐちも多いが、人に文句を言うのも多い先生だった。
授業開始前に、なにか言わずにはいられないのか。
俺に向かって、グチュグチュ言っていることもあった。

あんまりうるさいから「そんなこと、どうでもいいから、先生、はやく結婚しなよ」と言ったら、急に、黙った。
ナニ?、この人は、そう言えばおとなしくなるのかなと思ったら、ではなかった。

「ゆうじよ、おまえに そう言ってもらえるのは、すごくうれしいんだ。すごくうれしいんだけどな・・・おまえが俺に指図するな!!」

俺はそれ以上ななにも言わなかった。黙って、ふたりでにらみ合いになった。

 ある日の授業中、先生が俺のかばんをとって、中を調べていた。
「おまえのかばん、なにも入ってねぇんだな」
「入ってませんよ。何も、入れてないから」
「入れてないか。・・・立ってみろ」

いつになく、先生の目つきがきびしい。ここで、動じてはまずい。
学生服のポケットには、タバコとライターが入っているんだ。

「立ってもいいんですけど、なんで立つんですか」
「なんだ、立てねぇのか?」
「立てますけど・・・今、立つ理由がわからないんですけど」

さあ、どう出てくる?身体検査か?すると、先生は、ニヤッと笑い
「そうか、立てるか、覚えておくからな」と言って、前にもどっていった。

 授業終了後、友達が、「さっきのは、タバコがあるか調べてたな。どうも、誰かのタレコミがあったらしくて、十何人かの名前が挙がってるっていう噂だ」と、まわりにも聞こえる声で言っている。

「うん、先生のあの感じだと かなり自信が持ってるな。逃げ切れねぇな。」
「どうする?自首するか」 こいつも潔くて気持ちがいいね。

 タバコは、自分の体に害があるだけで、ひとの迷惑になるものじゃなかったからね。
今は、嫌煙権ってのもあるけど。
もひとつ、未成年の酒・タバコは法律で禁止されてるけど、日本たばこのかなりの売上にはなってるんだよね、この経済大国では。だから、ナニ?

「自首する必要はないと思う。あの感じだと、そうとうな情報をもってるな。先生達の出方待ちだな。ただ、一時、タバコは一切禁止だぞ。あとは、吊るし上げられるのを覚悟するだけだ。 その路線でいこう」

「どうも、そのタレコミやったのは、後輩らしいんだ」
「後輩?なんで後輩が先輩を売るようなことをやったんだ」
「どうも、悪いことをやった奴が、タバコ吸ってる奴の名前言えば、勘弁してやるって言われたらしい。どうする、しめるか」
「うーん、でも、その話は ただの噂かもしんないな」

 俺の長年の感(生後15年の経験)だと、タレコミは、女子のしわざのように感じていた。
事実、おとなになってから、わかったのだが、やはり、女子のタレコミだった。
なんで、女子はチクルのか?
男子に、あまり悪くなってほしくないからか?それとも、先生のご機嫌取り、点数かせぎか?どちらにしても、ばれちゃしょうがない。

落ち度がないように、まじめなよいこの優等生になろうとしたら、人間的じゃないということもあるから、ここは、開き直り。

 俺は、その当時、クラス委員をやっていた。
さほど優秀なわけではないのに、みんなが投票で選ぶんだもん。俺、知らないよ。
多少は、悪いこともして、けじめもつけるよ。

「その、後輩をしめる話は、なしだな。だいたいが、おれらが、教室で話してることは、先生には筒抜けだからな」
「なに?このクラスにも、チクリ屋がいるのか?」

 以前から、感じていたことだ。
特に、この国語の先生は、なぜ、そんなことを知っている?と思うことが、たまにあった。

「まず、まちがいなくいる。これで、先生たちが、動き出すはずだ。まっ、タバコの件は、このへんで一回締めて終わりにしよう」

 数日後、先生達が動き出し、20数名が裁きにあった。

 俺の読書感想文がいいねと、全校的にも選ばれることがあった。
たぶん、本の読み方・見方が、ひとと少し違ったからだと思うけど。
ということは、少しずれるということもあるわけで。

「路傍の石」という古い名作の感想文を書いたら、
「ゆうじのは、今回、すこし的がはずれたみたいだな」
「はぁ、そうですか」
「おい、そうですかじゃなくて、もっとくやしがれよ」
「・・・なにを、くやしがればいいんですか?」
「あはは、なにを、くやしがれって、的がはずれてるって言ってんだぞ」
「的がはずれるのは、しょうがないでしょう」
「おい、しょうがないって、的外れじゃだめだろうよ」

「いいんですよ、的がはずれても、まだ、中学生なんだから。大事なのは、自分の意見を、持つことですから。自分の意見を持ってれば、おとなに なるにつれて、だんだん、的が合ってくるんです」

 女子がふるえるような声で「えー」とざわめいている。なんで?。

先生は、急に、低い声になって、
「おまえ、将来、先生になるのか?」と、聞く。
「いいえ、先生には、なりません。っていうか、なれません」
「なんで、なれないって思うんだ?」
「俺、勉強好きじゃないから。勉強が好きじゃないのに、子供達に、勉強を教えることできないでしょう」
「できないか?」
「できませんよ、それが、できるのは、先生くらいですよ」
「おまえ、よくわかったな」

 やっぱり、そうだったんかい。
多いんだよね、子供達を教育するのが、好きなんじゃなくて、自分がいい職業に就きたい、自己顕示型自意識過剰人間が。
 
その先生は、かまってくれてるんだか、自分で遊びたいんだか、よく、話しかけてきた。
しかも、みんなの前で。
夫婦漫才ならぬ師弟漫才でも、やって見せて、子供達の注意をひきつける手なんだろうか。
そこまで、深い人にも見えなかったけど。

 ある日、また、なにか言い出した。
「ゆうじよぉ、俺も、おまえのこと、かわいがってやってんのも、疲れちったよ。もう、いいかげんに、しっかりしろよ」
「・・・かわいがってあげてんの、どっちでしたっけ?」
「なんだと!おまえが、俺のこと、かわいがってるっていうのか!」
「・・・わかんないなら、結婚して、子供つくってみなよ。そしたら、楽しませてもらってるのが、親か 子供か、どっちかわかるから」
「なにー」

 はい、一本、それまで。
 
俺は、漢字が好きではなかった。
同じ漢字でもいろんな読み方があるとか、熟語には由来があるとかというのは、おもしろいものもあるんで、読むのは、許せるんだけど。
書くのが、許せない。

 点が一個ついてるか、ついてないかで、正しいか間違っているかだとー。
この漢字の、ここんとこは、止めるのが正解で、はねてはいけません、だとー。
細かいんだよ。

 そのくせ、草書なんていう字体があって、虫が通ったあとみたいな、ぜんぜん読めない字書いて、風流ですなぁって、大昔のおとなは、なに考えてたんだか。

 よく漢字を忘れたという人がいるけど、俺の場合、忘れたんじゃなくて、最初から、覚えこんでないんだよね。
だいたいが、何千字もの漢字を、細かく頭の中に入れとくなんて、最初からあきらめてるよ。
頭は、他のことに使ったほうがいいんじゃないの、無駄がなくて。
漢字をいっぱい覚えて、将来、中国人になるわけでもないんだし。

 当然、漢字のテストは、ひどいもんで、国語の先生にマークされるわけで。
「漢字のテストを返すけど、ゆうじよ、“親孝行”の“孝”はこんな字だっけ」

あれまっ、“孝”か“考”か、どっちかなと迷ったんだけど、“考”を書いちゃった。
「“親考行”・・・“親を考えて行く”か、まちがってはないか」
「まちがいじゃないんですか」
「まちがいだよ。おまえも、もーすこし、考える子供になったほうがいいんじゃないのかな」
「先生も、その、いやみったらしい言い方、なおしたほうがいいんじゃないのかな」

「なんだと!おまえ、それは、問題になるぞ」
「そうですか」
また、だれかに言いつけるのか。ふー。ため息。
 
その先生に、職員室に呼び出されたことがあった。
クラスの一部では、ざわついた。
日頃のうらみをはらすのか。なにか、悪いことをやってばれたのか。
俺には、身におぼえがないんだけど、しゃーない、先生のところへ行ってみた。

 先生は、俺の国語のテストを見せて、「おまえ、漢字がぜんぜんできてねぇだろ。なんとかしろよ」って、今日は、学校の先生みたいだね。あっ、先生か。

「漢字は、どうにもならないっすよ。てごわいから」
「いや、どうにかしろよ。見てみろ、これ」

テストをよく見ると、なるほど、漢字は全滅だ。
俺らしい。
適当に書いた漢字も当たってない。もはや、まぐれも期待できない状態だ。

で、点数も相当低いのかと、ふと見ると、80点も取れてるじゃないか。
「先生って、80点も取れてるんなら、漢字なんか、できなくってもいいじゃないですか」
「80点も取れてるって、おまえ、漢字ができたら、100点も取れるんだぞ」
「先生って、100点なんか取ったって意味ないじゃないですか。80点取れてれば、十分でしょう。」
「おまえ、ふつう、そう考えるか?」
「考えます。では、失礼します」
 深く頭を下げて、職員室を出た。

 教室に戻ると、友達が「何の話だった?何を言われた?」と、集まってきた。
心配と興味本位で聞いているらしい。

「何も、言われなかった。ただ、俺、漢字覚えなくていいことになったんだ」
と、でかい声で言ってしまった。
教室で話をすると、スパイが聞いてるんだよな。

 後日、先生が「ゆうじよ、俺は、漢字覚えなくていいなんて、言った覚えはないぞ」
「先生には、覚えがないでしょうね。俺は、言った覚えがありますけどね」

「おまえが、勝手に決めていいのかよ」
「いいんですよ。自分のことは、自分で決めます」
どうだ、これで、スパイもろとも、封じ込めただろう。

 おとなになってから、ワープロがかなり普及してきた。
つまり、漢字は、読めて意味がわかれば、文章は作れるんだ。
 
30才頃、その先生を囲むちいさな同窓会があった。
ふたりで話すチャンスがあったので、漢字の話をしてみた。

「先生、今時は、ワープロができて、俺が言ってた通り、漢字は読めればいいんで、書けなくても いいんじゃん。どうだい、俺の勝ちだろう。俺、ざまあみろって思ってんだ」
「いや、それじゃ、俺たち教師が困るんだよ。教えること、なくなっちまうじゃねぇかよ」

「なけりゃないで いいだろうよ」
「よかねぇよ、俺達の立場がなくなちまうじゃねぇかよ」

「立場なんかなくなったっていいだろうよ。教師の仕事に、子供たちがあわせるんじゃないんだからね。子供たちのために、教師が あわせるんだよ」
「いや、だめだよ、仕事なくなっちまったら、困るべや。この歳になって、再就職もできねぇし」

「あのさぁ、そんなにさからってばかりいないで、たまには、素直に“ああ、そうだな”って、言ってみなよ」と、言ったら、急に静かになった。

 おろっ、少々きついこと言っても、傷つくような玉じゃないはずなんだがと、思ったら、俺をにらみながら、低い声で言い出した。
「いまの言葉、そのまんま、おまえに、返すからな」

ふーん、さからってばかりいないで、素直になれ・・・か。たしかに、思い当たることはあるね。

「へー、先生、ずいぶん先生らしくなってきたね」
「おー、キャリアだけは、長いからな」で、15年ぶりに、にらみあい。

 そしたら、両方とも、目をそらさないんだもん。
俺より、15才も年上なのに、しょうがねぇな。しかたない。

「あっ、いけねぇ、俺、先生とにらめっこしに来たんじゃないんだ、酒のみに来たんだっけ」
「あっ、そうだ、俺も、酒のみに来たんだ。どれ、飲むべ」

 さあ、どうぞ とビールを注ごうとしたら、そのビールをとりかえそうとして「俺に、先に注がせろよ」という。なんだ、むくれちゃったのか?

「先生、それじゃ、逆だろうよ」
「いいから、先につがせろよ」とにらんでいる。このひと、がんこじじい になりそう。しょうがないな。先に、注いでもらった。

「うむ、すまんな」
「なんだ、古いな」
「うん、俺、白髪が多いから」
「そうか」さあ、ご返杯。
「おい、毒なんか入って、ねーだろな」失礼な!
「毒があったら、入れるけど、ないから、入れないよ」で、さわやかに、乾杯!。
 
世の中には、よくわからない人間関係がある。
わかっているのは、精神的に充実してたなということ。
簡単にいうと、おもしろかった。
でも、結果的に、この先生も、俺を、人間的に育ててくれた人だということは、まちがいない。
ただ、少し気になるのは、育ててもらって、今現在、この程度ってこと。
まっ、いいよね。 

 


 


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